抑圧・抑制・否認
防衛機制
私たちは、葛藤や脅威などの体験により、恥、劣等感、不安、罪悪感など様々な心理的苦痛や不快な衝動、感情の体験をします。そしてそれらの感情体験を無意識のうちに弱めたり、避けたりすることにより精神的な安定を保って生きています。
このために用いられる心理的メカニズムのことを、防衛機制(defence mechanism)と言います。
欲求が何かの妨害のために満たされなく耐え難い時や、心に負った傷をなかったことにしたいなどの欲望に対してもこの防衛機制は発動します。
防衛機制は、私たちが外からの課題や内的欲求に対処しながら生きていくうえで大切な役割を果たしており、適応機制とも呼ばれています。
ここでは、最も基本的な防衛機制とされる「抑圧」と、類似する「抑制」「否認」についてご紹介します。
抑圧
「抑圧」とは、受け入れ難く不快な体験の記憶や感情、考えを意識から締め出して無意識に隔離し、意識に上ってこないようにすることです。
他人に指摘されても思い出すのが難しいほど、それらの記憶や感情は心の奥深くに押し込められますが、すっかり消えてしまうわけではなく無意識下にとどまっています。
抑圧の具体例としては、
・幼少期の親からのひどい虐待の記憶が全くない
・ひどいいじめにあっている子どもが、いじめられていないと言う
・紹介する人の名前が瞬間的に全く出てこない(その対象の人に対して無意識の否定的な感情がある)
・気乗りしない友人との約束の日を完全に忘れてしまっていた
・好きじゃないおかずの存在を完全に忘れていた(目の前に置かれているのに気づかない)
など。
受け入れ難い状況から逃れるために抑圧は助けになることもありますが、抑圧された記憶や感情は夢の中で蘇ったり、身体症状に表れたりすることもあるので注意が必要なこともあります。
抑制
「抑圧」に類似する防衛機制に「抑制」があります。
「抑制」は、意識的に不安や不快を感じるような出来事などを考えないようにしたり、願っても叶いそうもないと思われることについて考えるのを避けたりすることです。
意識的にそれらと距離を置く点が「抑圧」と異なります。
抑制の具体例としては、
・仕事に没頭して失恋したことを考えないようにする
・嫌なことを忘れて楽しいことを考えようと努める
・相手の嫌なところを見ずに、良いところに注目するようにする
などがあり、社会の中でうまく適応していくために役に立つ防衛機制でもあります。
否認
「否認」は、受け入れ難い現実や、不安やストレスの原因となる不快な出来事から目をそらし現実を認識しないようにすることです。視界に入っているのに「見えてない」、知っているはずなのに「知らない」というように、知覚しているのにその現実や出来事を頑なに認めません。
「抑圧」が出来事自体を意識から排除してしまうのに対して、「否認」は知覚したうえで認めないのが異なる点です。
否認の具体例には、
・依存症の人がその事実を認めず、周囲がおかしいと訴える
・大きな病気を宣告されたにも関わらず、自分は健康であると思い込む
・振られたことを認められず、うまくいくという占いなどの意見を頼る。周りの諦めた方がいいという人は否定する
などがあげられます。
ストレス場面において、無意識のうちに否認を用いて心の安定を保つことができた経験を持っている人は少なくないはずです。危機的場面を乗り越えるときに、現状を否認することで本来の力以上の能力を発揮できることもあるでしょう。
しかし、多くの場合、否認を克服していくことが望ましいようです。現実と向き合うことで根本的な問題を解決し、前向きな一歩を踏み出すことが出来ると考えられるからです。
今回は、防衛機制の「抑圧」「抑制」「否認」についてご紹介しました。
防衛機制は、辛く、受け入れられない出来事や考えから自分を守るために誰もが無意識に取り入れている手段であり、決して「悪いもの」ではありません。
しかし、頻繁に繰り返すことでその人の思考や行動のパターンとなって定着し、生活に支障をきたすようになることもありますので、時には自分の現状や本当の感情、欲求と向き合ってみることが望ましいかもしれません。
最後までお読みいただき有難うございました。
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