「同一化(同一視)」「取り入れ」
防衛機制
私たちは、葛藤や脅威などの体験により、恥、劣等感、不安、罪悪感など様々な心理的苦痛や不快な衝動、感情の体験をします。そしてそれらの感情体験を無意識のうちに弱めたり、避けたりすることにより精神的な安定を保って生きています。
このために用いられる心理的メカニズムのことを、防衛機制(defence mechanism)と言います。
欲求が何かの妨害のために満たされなく耐え難い時や、心に負った傷をなかったことにしたいなどの欲望に対してもこの防衛機制は発動します。
防衛機制は、私たちが外からの課題や内的欲求に対処しながら生きていくうえで大切な役割を果たしており、適応機制とも呼ばれています。
ここでは、防衛機制の中の「同一化(同一視)」と同一化の前段階にある「取り入れ」についてご紹介します。
同一化(同一視)
「同一化(同一視)」とは、自分にない優れた能力や名声を持つ他者を真似て自分を近づけることで自分自身の価値を高めたり、劣等感やコンプレックスから逃れようとしたりするものです(同一化)。
また、自分自身の存在自体を対象となる他者に重ね合わせ、他者や他者の状況を自分のことのように感じたり考えたりします(同一視)。
取り入れ
「取り入れ」は、他者の内にある考え方、価値観、感情などを自分の内に取り入れ、自分のものとする心の働きです。他者の一部を取り入れて真似るもので、発達過程においては、親や周囲の人間の好ましく感じる部分を取り入れることが多いため、道徳心や良心の形成に役立つものでもあります。
「取り入れ」が、他者の思考などを断片的に取り入れるのに対し、「同一化」は、自己と他者の区別がつかなくなるほど多くを取り入れるため、自分がその他者であるかのように感じてしまいます。
具体例には、
同一視の具体例(必ずしも全ての言動に言えるものではありません)
・芸能人など有名人と共通点があること(出身校が同じ、話したことがあるなど)を自慢する
・親の肩書や功績をあたかも自分のものであるかのように自慢する
・自身の肩書き(出身校、職歴など)を表に出す、自慢する
・アニメなどのコスプレをしてヒーローになりきる
・子どもを亡くした母親が、亡くなった子どもと同化して生きる
・憧れのスターの服装や髪型、話し方など一挙手一投足に至るまでそっくりに振舞う
・そのスターの活躍や世間からの賞賛を自分に与えられたものと感じ満足する
・クラスの人気者と話をすると、自分も人気者になったような気がする
・失恋したとき、映画のヒロインに自分を重ね合わせ、悲劇のヒロインとなる
・大人の世界を取り入れた子どものごっこ遊び
取り入れの具体例
・自分に自信のない人が威圧的な上司の真似をして部下を虐める
・憧れの有名人と同じダイエット法にのめりこむ
・好きな女優のメイクを真似する
などがあげられます。
子どもは、親の姿から何かしら取り入れることにより、社会に適応するスキルを身に着けていくものです。そのような意味で取り入れや同一化のプロセスは、人間の成長には欠かせないものとも言えるでしょう。また、趣味やスポーツ、仕事上のスキルなども手本となる他者を真似てみることで自分を向上させることができるものです。
一方で、他者を真似ることで自分を守り続けていると、自他の区別がつきにくくなり主体性のなさに繋がることも考えられますので注意が必要な場合もあります。
防衛機制は、辛く、受け入れられない出来事や考えから自分を守るために誰もが無意識に取り入れている手段であり、決して「悪いもの」ではありません。
しかし、自分がどのような防衛機制を使いがちであるか、どのような時にどのような反応をしがちなのかを知ることは、自分自身を理解するうえで重要なポイントと言えるでしょう。
今回は防衛機制の「同一化(同一視)」と「取り入れ」についてご紹介しました。
最後までお読みいただき有難うございました。
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