Ⅱ.交流分析 – 1.構造分析- 特性
各自我状態の特性
『CP(Critical Parent:批判的な親)』
幼少期に両親(養育者)の支配的で権威的な価値観を取り入れた部分で、父性的・男性的な他者の上位に立って厳格に指導しようとする自我状態としての特徴を持つ。
CPに基づく言動は、『他者に対する批判・指示・命令』や『自己に対する良心・道徳・規範』となって現れやすい。他人を賞賛するよりも非難することが多く客観的事実を重視せずに、自分の信念・価値観に基づいて独断的な非難(自分が間違いと感じる事に対する批判)をすることが多い。
『NP(Nurturing Parent:擁護的な親)』
幼少期に両親(養育者)の保護的で世話好きな価値観を取り入れた部分で、母性的・女性的な傷ついた他者を優しく包み込んで励まそうとする自我状態としての特徴を持つ。
NPに基づく行動は、『他者に対する優しさ・愛情・保護』や『自己に対する保護者的なアイデンティティ(他人を守ってあげる義務感)』となって現れやすい。援助を必要としている他人を手伝ってあげたり、温かい励ましの言葉を掛けたりすることが多く、困っている人や弱っている人を見捨てられないという『共感性・同情性』の特徴を持つ。
『A(Adult:大人)』
合理的なコンピューターに喩えられる現実的な自我状態であり、『客観的な事実・情報』に基づいた判断を下そうとする。
客観的なデータや利害を参照しながら仮説を立てて合理的に適切な判断を下そうとするので、感情に左右されない冷静な決定を行うことができる。
だが、時に冷淡な温かみのない人間というマイナスの評価を受けることもあり、現実的判断と人間的な情緒とのバランスも重要となる。合理的で適応的な行動を生み出すAは、現実の社会環境や対人関係に適応するのに役立ち、PやCの過剰な働きを抑制して『人格の統合(精神機のバランス化)』を促進するという役割もある。
『FC(Free Child:自由な子)』
本能的な欲求・感情に基づいて明るく天真爛漫に振る舞おうとする自我状態であり、他者や社会のルールに束縛されない自由な行動と感情表現が特徴である。親の躾や学校の教育、社会規範の影響を受けていない、子ども時代の思考・感情・行動のパターンが持続しているもので、自己中心的で幼稚な側面もあるが、純粋な喜びや興奮を感じている時にはFCが強くなりやすい。
FCは社会規範や現実適応から逸脱した自分中心のわがままな振る舞いになることもあるが、『幸福感・想像力・好奇心・創造性』を生み出す源泉にもなっている。
『AC(Adapted Child:適応的な子)』
両親の躾や学校の教育に素直な態度で順応しようとする自我状態であり、自分の自然な感情や欲求を押し殺して周囲の状況(他人の指示)に合わせようとする傾向がある。社会常識や権威的な人物(目上の相手)、両親の指導に対して素直に従い従順なので、一般的に礼儀正しくて社会適応の良い人と見られやすいが、一方で自分の欲求や感情を過度に抑圧することでストレスを蓄積しやすい問題がある。社会環境や対人関係に円滑に適応しやすい自我状態であるが、自然な感情・価値観を抑圧して我慢することによって、自己嫌悪や劣等コンプレックスが強まりやすくなる。ACの適応性が限界に達すると、その反動としての恨みや敵対心(攻撃性)が生まれたり、『相手への依存性』がいじける行動や拗ねる態度に転換されることもある。
【補足】
エゴグラムと精神疾患の発症リスクの相関では、『FC(自由な子ども)』が低くて『AC(適応的な子ども)・CP(批判的な親)』が高いと、うつ病やパニック障害、消化性潰瘍のような心身症の発症リスクが高くなるとされている。心身の健康を維持するためには、自分の自然な感情や欲求を発散するために『FC(自由な子ども)』をある程度高めると同時に、自分の疲労やストレスを共感的に慰撫するための『NP(擁護的な親)』の自我状態も高めていたほうが良い。
『CP』は完全主義思考や道徳心の過剰、強迫的な考え方によってメンタルヘルスを悪化させるが、現実的かつ合理的な判断を下す『A(大人)』が強すぎても、自分の感情・情緒に気づきにくい失感情言語症(アレキシシミア)の問題が起こって心身症の発症リスクが高まる。
『FC・AC』といった子どもの自我状態が強くなり過ぎると、他者への依存性や自己中心的な幼児性が高くなり、自己愛性パーソナリティ障害や演技性パーソナリティ障害、境界性パーソナリティ障害といったかつてのヒステリー性格に似た『感情的な興奮・自己愛の過剰・嗜癖的な依存性』が問題化してくる。